2.畏れと恐れ(敬畏和恐懼)
トウカ:
んっ……ううっ……!
稻禾:
嗯……嗚嗚……!
うなされるような声をあげるトウカ。
額の手ぬぐいを交換しようとした時、 彼女の目が開いた。
稻禾發出了宛如做惡夢般的聲音。
正打算要替換額頭上的毛巾時,她的眼睛睜開了。
トウカ:
あれ……団長様。
ここは……どこですか?
稻禾:
咦……團長大人。
這裡是……哪裡?
ブロッサムヒルの診療所だと説明すると、
トウカは驚いて起き上がった。
しかしすぐに頭を仰えてうずくまってしまう。
何があったか覚えているか尋ねると、 彼女は少し考えてから……。
說了這裡是茂盛之丘的某間診所後,
稻禾嚇得坐了起來。
但是很快就躺下來了。
我問她還記得發生了什麼,她想了一下……。
トウカ:
そうでした……私は、 戦闘中に倒れて……
害虫と戦っていたと思ったら、 急に目の前が暗くなって……!
団長様、 他のみなさんは大丈夫だったのですか! ?
稻禾:
我記得……我好像在戰鬥途中倒下……
一想到要跟害蟲戰鬥,眼前突然就黑了……!
團長大人,其他人都沒事吧!?
害虫はすでに倒した。
完全勝利だ。
その上でトウカを連れて帰ったのだ。
害蟲已經被打倒了。
是全面性的勝利。
然後帶著稻禾回來的。
トウカ:
良かった……みなさん、 無事だったのですね
稻禾:
太好了……大家都平安無事啊
安堵するトウカ。
まず仲間の無事を喜ぶあたり、 彼女の優しさがうかがい知れる。
稻禾感到放心了不少。
先為同伴平安無事感到高興的時候,可以體會到她的溫柔。
トウカ:
私は……どうして倒れたのでしょうか?
害虫の攻擊を受けたわけでもないのに、
それとも毒のようなものを吸ったのでしょうか?
稻禾:
我……為什麼會倒下呢?
明明沒有受到害蟲的攻擊,
難道是中了什麼毒嗎?
それについては、 医療に心得のある複数の花騎士が診断している。
トウカの症状は──睡眠不足による疲労だ。
關於這個,有醫療方面經驗的多名花騎士進行過診斷。
稻禾的症狀是──睡眠不足導致的疲勞。
トウカ:
え……?
疲労……それだけ……ですか?
稻禾:
誒……?
就只是……疲勞……而已嗎?
逆に言えぱ、 倒れるほどの疲労だったというわけだ。
トウカには負担が大きかったのだろう。
しぱらく寝ていないはずだ。
反過來說,會倒下就是因為疲累才會這樣。
對稻禾來說負擔很大吧。
妳就該要好好睡一下的。
トウカ:
……はい。
昨夜は徹夜で仕事をしていました。
眠り姫様に関する書物の編纂の手伝いと、 司聖官の日誌の執筆を……。
つい熱が入ってしまって
稻禾:
……是。
昨晚熬夜工作。
幫忙編寫關於睡美人大人的書籍,還有寫司聖官的日誌……。
突然就發高燒起來了
トウカ:
でも、 それはいつもの事です。
この程度、 眠り姫様のためなら何でもありません。
ひとりでも多く眠り姫様の事を知ってもらえるなら、 辛くないんです
稻禾:
不過,這是很平常的事情。
為了睡美人大人,這種程度就沒什麼了不起的。
如果能多了解關於睡美人大人的事蹟的話,這點辛苦就不難受了
そうかもしれない。
身体ま疲れていても、 熱中していれば忘れてしまえる。
精神が肉体の疲れを吹き飛ぱしてくれる事はある。
也許是那樣子吧。
即使身體疲憊,如果過度熱衷也會忘記。
在精神上可以驅散肉體的疲勞。
トウカ:
はい。
ですから徹夜の一日や二日、 全然問題ないです。
これでも花騎士として鍛えてもいますからね
稻禾:
是的。
所以通宵個一、兩天,完全沒有問題。
這對於花騎士的鍛煉來說也是有的。
だが、 今日の戦闘はその逆ではないのか。
但是,對於今天的戰鬥來說不是正好相反的嗎。
トウカ:
え……?
稻禾:
誒……?
トウカは優しい子だ。
本当は害虫であろうと傷っけるのが嫌なはずだ。
いくら身体を鍛えても、 嫌いな仕事をすれば──激しいストレスになる。
弱った身体に、 強いストレスが重なれぱ、 簡単に倒れる。
稻禾是個溫柔的人。
無論是害蟲還是受傷應該都不願意這樣。
無論怎麼鍛煉身體,只要做著不喜歡的工作──就會感受到壓力。
身體虛弱,壓力重重,就會容易累倒。
トウカ:
そんな……事……
稻禾:
這種……事情……
反論しかけて、 トウカの声が止まる。
正想要反駁時,稻禾突然不出聲了。
トウカ:
……だって……だってそうしないと、
眠り姫様が守った世界を守れないから……。
眠り姫様みたいになれないから……
稻禾:
……因為……因為如果不那樣做的話,
就無法保護睡美人大人想守護的世界……。
沒有辦法像睡美人大人那樣……
自分の手を見て、 自分に問いかけるトウカ。
やがて彼女はこちらを見て、 諦めたように目を伏せる。
稻禾看著自己的手,不斷向自己詢問著。
接著她看著我,垂頭喪氣地垂下眼睛。
トウカ:
怖いんです、 生き物を殺すのが。
草木でも……害虫でも……
稻禾:
殺害生命什麼的,好可怕。
不論是草木……還是害蟲……
ぽつりと、 トウカは呟いた。
稻禾突然開始自言自語起來。
トウカ:
眠り姫様に近づこうとしていたんです……。
少しでも、 あのお方のようになりたくで……。
でも、 私は眠り姫様じゃないから……
せめて、 あのお方の役に立ちたくて……
稻禾:
想要接近睡美人大人……。
哪怕只有一點點,也想成為和她一樣的人……。
不過,我並不是睡美人大人……
至少,我想要幫到那位大人的忙……
トウカ:
でも……生き物を殺すと……震えが止まらないんです。
たとえ人を脅かす害虫でも、 殺すのは嫌いで……。
殺すたびに、 私の中の誰かが見ている気がして……
稻禾:
但是……殺死生命的話……我就止不住顫抖。
即使是威脅人們的害蟲,也討厭殺掉他們……。
每次殺了之後,我都覺得我的內心好像有人在看著……
トウカ:
でも……でも……殺さなくちゃ……眠り姫様が……。
私……うううう……っ!
稻禾:
但是……但是……還是得非殺不可……睡美人大人……。
我……嗚嗚嗚嗚……!
顔を覆って泣き出すトウカ。
ストレスの原因を自覚した事で、
抑えていた感情が止められなくなったのだろう。
稻禾捂著臉哭了起來。
因為自覺到壓力的源頭,
壓抑著的感情也止不住了吧。
トウカ:
あああっ……!
うぁぁっ…………!
稻禾:
啊啊……!
嗚啊啊…………!
救国の伝説だろうが、 司聖官だろうが、 誰にでも向き不向きはある。
トウカは自分のやりたい事と、 やるべき事が嚙み合っていないのだ。
休む間もなく仕事をしていれぱ、 いつか負の感情でパンクしてしまう。
救國的傳說也好,司聖官也罷,誰都會有不適合的時候。
稻禾沒有做好自己想做的事,和應該要做的事。
休息不了就堅持工作,總有一天負面情緒會爆發出來的。
トウカ:
っ…………!
団長様……私……どうすればいいですか……?
稻禾:
っ…………!
團長大人……我……該怎麼辦才好……?
一番いい方法は、 少し休む事だと思う。
しっかり身体を休めて、 その過程で自分を見つめ直す事だ──
そう言うと、 やはり彼女は反発した。
我覺得最好的辦法,就是稍微休息一下。
好好休息,並在那個過程中重新審視自己──
我這樣子講,她還是不接受。
トウカ:
……いけません!
まだ仕事が残っているんです!
ひとりでも多く、 眠り姫様の教えを伝えないと──
稻禾:
……還是不行!
還剩下不少工作!
至少要多傳達一下睡美人大人的教誨──
それも含めて、 少しロータスレイクの大司聖官と話をしてくる。
トウカの休暇もたっぷりもらってくる、 と伝えると、 彼女は反論を止めた。
自分でも思う所があったのだろう。
這件事情,我會去跟蓮花湖的大司聖官談談。
轉告說該讓稻禾放個假後,她停止反駁了。
她自己也這麼認為的吧。
トウカ:
……分かりました。
少し……休みます。
でも、 ひとつだけお願いが
稻禾:
……我知道了。
稍微……休息一下好了。
不過,我有一個請求
トウカ:
その……泣いちゃった事、 みんなには黙っていてください
稻禾:
那個……我哭出來的事情,還請對大家保密喔
そういう強がりもス卜レスの元だ、 と言うと、 トウカは苦笑して頷いた。
這種逞強也是壓力的根源喔,我這麼說之後,稻禾苦笑著點了點頭。