侯爵令嬢ティルと流れ星(前)侯爵千金媞爾與流星(前)
原文連結本編「ドレスの合わせと侯爵夫人」(https://ncode.syosetu.com/n7787eq/289/)のジルドの妻のお話です。本篇「
禮服的調整與侯爵夫人」的吉魯多妻子的故事。
(ティルナーラ・ラヴァエル、現在、ティルナーラ・ディールス)(媞爾娜菈.拉瓦艾爾,現在的媞爾娜菈.迪爾斯)
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「神様、お願いします――」「神明大人,拜託您——」
流れ星に祈ると願いが叶う――絵本で読んだ一文だ。 向流星祈禱願望就會實現——是在圖畫書裡看到的一篇文。
ティルナーラは懸命に夜中に起きて、窓の外の夜空に精いっぱい祈った。 媞爾娜菈拚命地在深夜裡起來,對著窗外的夜空盡力祈禱。
「神様、もっと細くなれますように、でなければきれいになれますように。せめて、髪をきれいな金色にしてください……!」「神明大人,請讓我變苗條,不然的話就是變漂亮。至少,請把頭髮弄成漂亮的金色……!」
目を赤くして起きた朝、ティルナーラは飛び起きて鏡を見る。 紅著眼睛起床的早上,媞爾娜菈跳起來看著鏡子。
どれも叶えられていなかった。 哪項都沒有實現。
大きな姿見に映るのは、ふっくらとした頬の、丸みのある体の子供。 映照在大大穿衣鏡裡的是,有著胖嘟嘟的臉頰、圓滾滾身體的小孩子。
金が入ったくせのある茶髪に、濃い茶色の目。 帶金色有捲毛的茶髮加上深茶色的眼睛。
貴族の少女達は細く妖精のような子が多いというのに、自分はどうみても『小熊』である。 都說貴族少女們有很多苗條妖精般的孩子,自己不管怎麼看卻都是『小熊』。
親戚の集まりでも、一番重そうな女の子は自分だ。 在親戚的集會裡,最重的女孩子也是自己。
細くなりたいと乳母に泣き付いたら、『お嬢様は太ってはおられません。騎士であるお父様ゆずりの骨格なだけです。ティルナーラ様はとても丈夫なことを誇るべきです』と、教えられた。 跟乳母哭求想變苗條的話,就會被告知『大小姐並不胖。那只是承襲自身為騎士父親的骨骼。媞爾娜菈大人應該要自豪非常健壯』。
滅多に風邪もひかないほどに丈夫で、怪我をしても己の治癒魔法ですぐ治せる。 不怎麼罹患感冒般的健壯且,就算受傷也會用自己的治癒魔法馬上治好。
だが、それとこれとは別である。 但是,那個與這個是不同的。
そして本日、ティルナーラは朝から深いため息をついていた。 然後今天,媞爾娜菈從早上就深深嘆息著。
本日は『子供交流会』、ティルナーラはこの催しが嫌いだ。 今天是『孩童交流會』,媞爾娜菈很討厭這個的活動。
六歳からお披露目まで出なければいけないそれは、『近しいお家の子供達で仲良くなるためのもの』だという。 從六歲開始直到正式亮相為止必須要出席的那個,是所謂『為了讓親近家庭的孩子們關係變好的東西』。
陽光のはねる広間で、大人しくお茶を飲んでお菓子を品よく食べ、お話をする。 在陽光燦爛的大廳,乖巧喝著茶並優雅吃著點心、聊著天。
場合によっては、講師を横に、ダンスの練習もする。 根據場合會讓講師待在旁邊,也會練習舞蹈。
だが、子供同士で遊べるわけでもなく、騒げば注意され、ひどくなると別室行きか帰宅である。 但是,並不是小孩子們玩在一起,吵鬧會被提醒,過份的話會去別的房間或回家。
年に数度、お披露目前の子供達を集めて行われる『子供交流会』は、同じ派閥でも近しい者、近い年の者を引き合わせ、友好な関係を結ぶために行われる。 一年數次,聚集正式亮相前的小孩子們舉行的『孩童交流會』,是為了互相引介在同派閥裡也親近的人、年齡接近的人,締結友好關係而舉行的。
そしてもう一つ。 然後還有一點。
貴族では遠い親戚や派閥内での婚姻が多い。 貴族裡很多遠房親戚或派閥內的婚姻。
とはいえ、条件だけで決めた婚姻は、結婚後に問題も起こりやすい。 雖說如此,只憑條件決定的婚姻在結婚後很容易發生問題。
このため、候補選定や相性を見る、どこかへ紹介するための参考にもなるのだが―― 為此,也會成為候補選定及查看緣分、要介紹到哪裡的參考——
そういったことをティルナーラが知るのは、ずっと先の話だ。 媞爾娜菈知道這種事是在更未來的故事。
今回の子供交流会を主催する侯爵家へ、付き添いの女性と共に行く。 與陪伴的女性一同往這次主辦孩童交流會的侯爵家去。
白い調度のきれいな広い部屋に入り、係の案内に従ってテーブルにつく。 進入白色陳設很漂亮的寬敞房間,依循人員的帶領來到桌邊。
そして、音を立てぬように慎重に紅茶を飲み、ナイフとフォークでフルーツケーキを食べた。 然後,為了不發出聲音而慎重地喝著紅茶,用刀子與叉子吃著水果蛋糕。
礼儀作法が気になって、まったくおいしくなかった。 很在意禮法而不怎麼美味。
隣の金髪の女の子が笑顔で声をかけてくれたが、話についていけない。 隔壁的金髮女孩子過來搭話,卻跟不上話題。
花の見頃も、王都の今月の催しも、自分はろくにわからなかった。 賞花的時刻與、王都這個月的活動自己都不是很明白。
ただ、懸命に相手の話を聞くだけだった。 僅僅只能拚命地聽著對方說話。
その後、隣にある広間でダンスの練習が始まった。 那之後,在隔壁的大廳開始了舞蹈的練習。
ティルナーラは二度目の参加だが、近い年の男子は誰も自分を誘わない。 媞爾娜菈雖是第二次參加,但年齡接近的男子誰都沒有邀請自己。
当然である。前回、ダンスで相手の足を何度も踏んでしまったのだ。 當然的。上次因舞蹈踩了好幾次對方的腳。
金髪の男の子には小さくうめかれ、ダンスが時折止まってしまったが、文句は言われなかった。 金髮的男孩子雖小小的呻吟、偶爾停止了舞蹈,但沒有抱怨。
銀髪の男の子には痛みで眉間にシワを寄せられたが、彼も何も言わなかった。 銀髮的男孩子雖因疼痛而在眉間擠出皺紋,但他也什麼都沒說。
『靴の艶がなくなるほど踏まれた』、そんなふうに従者にこっそりと告げ、靴を取り替えに出ていた。 『被踩到鞋子都沒光澤了』,偷偷地像那樣告訴隨從,出去更換鞋子。
ティルナーラが謝っても『お気になさらないでください』と礼儀作法の教え通りの挨拶が戻ってくるだけ。 就算媞爾娜菈道歉,也只是回以如同禮法教學的問候『請不用在意』。
自分の目を見ずに言われるそれが、申し訳なく、そして辛かった。 沒有看著自己的眼睛被說的那句話,真的很抱歉,然後很痛苦。
ティルナーラは今回は誰にも迷惑をかけまいと決め、こっそり広間の隅による。 媞爾娜菈決定這次不給任何人添麻煩,偷偷靠到大廳的角落。
背中を丸めて壁にくっついていると、足元の陽光が途切れた。 駝著背貼著牆壁後,腳邊的陽光中斷了。
「ようこそ、ラヴァエル嬢。せっかくの日です、私と踊って頂けませんか?」「歡迎、拉瓦艾爾小姐。難得的日子,能跟我跳支舞嗎?」
輝く金髪に琥珀の目。 閃耀的金髮加上琥珀的眼睛。
背が高く、すらりとした手足を持つ少年が、手を差し出してきた。 擁有高個子、修長手腳的少年伸出手來。
ティルナーラより四歳ほど上の少年は、他の子供達よりとても大人びて見える。 比媞爾娜菈大上四歲左右的少年,看起來比其他小孩子們更有大人樣。
顔は知っているし、今まで何度か挨拶したこともある。 臉是知道的,至今有問候過幾次。
本日主催の家、その長男、ジルドファン・ディールスだ。 是今天主辦家庭的那位長男,吉魯多凡•迪爾斯。
主催の家の男性は、誰とも踊っていない女の子を誘うのも決まりなのかもしれない。 或許主辦家庭的男性要邀請沒有跟任何人跳舞的女孩子也是規定吧。
だが、その足元は今まで見た中でも一番艶やかな黒い革靴で――ティルナーラは青くなる。 但是,那雙腳上穿著至今看過的裡面也是最鮮豔的黑色皮靴——媞爾娜菈變得鐵青。
「ありがとうございます、ディールス様。でも、ええと、ダンスは練習中で、下手で、相手にご迷惑をかけてしまうので」「非常感謝您,迪爾斯大人。但是,呃,舞蹈還在練習中且、笨拙,會給對方添麻煩的」
あわてて言うと、少年はちょっとだけ目を細めた。 慌張說完後,少年稍微瞇起了眼睛。
「これまでにどなたかが、迷惑だと?」「至今給哪位添麻煩了?」
「いえ、本当に下手で! 靴の艶がなくなるほど踏んでしまうので、踊ってくださる方がいなくなりました……」「不,是真的很笨拙! 我會踩到鞋子都沒光澤了,沒有會來跳舞的人了……」
言いながら、顔が上げられなくなった。 一邊說,一邊變得抬不起頭來。
「子供交流会はダンスの練習の場でもあります。私に靴の替えは多くございますので、ご一緒に練習しませんか?」「孩童交流會也是舞蹈的練習場。我有很多替換的鞋子,要不要一起練習呢?」
「あ、ありがとうございます……」「非、非常感謝您……」
ティルナーラはようやく、ジルドファンの手のひらに指を重ねた。 媞爾娜菈終於把手指交疊在吉魯多凡的手掌上。
そうして踊り始めたものの、緊張で六度も足を踏んでしまった。 儘管就這樣開始跳舞,卻也緊張得踩到六次腳。
ダンスは一番練習した曲なのに、だ。 明明舞蹈是練習最多的曲子。
だが、ジルドファンは一度も痛い表情(かお)を見せず――靴には見事に傷がついた。 但是,吉魯多凡一次都沒有展露過疼痛的表情——鞋子倒是完全傷到了。
「ごめんなさい!」「對不起!」
「大丈夫です、練習ですから当然のことです」「不要緊,這是練習所以是理所當然的」
「でも、靴がもったいなく……靴に治癒魔法をかけられたらよかったのに……」「但是,可惜了鞋子……能給鞋子施加治癒魔法就好了……」
思わずそうつぶやくと、彼は初めて目元を下げて――ふわりと笑った。 不假思索如此呢喃後,他第一次垂下眼角——笑了開來。
それは年齢らしいやわらかさで、ティルナーラはなんと言っていいかわからなくなる。 那是符合年齡的柔和,媞爾娜菈不知道該說什麼才好。
「それができたら経済的ですが。幸い、私の靴の替えは多くございます。それより、もう一曲踊りませんか?」「能做到那點可是非常經濟呢。幸好,我替換的鞋子很多。說起來,能再跳一首嗎?」
ダンスの二曲目を誘うのは、『友人となりませんか?』というお誘い。 會邀請第二首舞是名為『我們能成為朋友嗎?』的邀約。
でも、今日は子供交流会、ダンスは練習だからそうではないのだろう。 但是,今天是孩童交流會,舞蹈是練習所以不是那樣的吧。
ティルナーラは緊張しつつもお礼を言い、二曲目を踊ることになった。 媞爾娜菈很緊張的道謝,跳起了第二首。
なお、靴はさらにもったいないことになった。 另外,鞋子變得更加可惜了。
それから、子供交流会に出る度、ジルドファンは毎回二曲ずつ踊ってくれた。 那之後,每次出席孩童交流會,吉魯多凡每次都會來各跳兩首。
次のダンスからは彼の足を踏まないことを目指して練習したが――なかなかに遠かった。 從下次的舞蹈開始就以不要踩到他的腳為目標練習——但還相當遙遠。
翌年からは、なんとか足を踏まなくなり、他の男の子とも踊れるようにはなった。 從隔年開始,總算不會踩到腳了,也會跟其他男孩子跳舞。
だが、作り笑顔で誘われても、どうしても一曲だけしか踊れなかった。 但是,就算被用做作的笑容邀請,無論如何也只會跳一首。
表情が変わらず、たまにしか笑顔にはならないけれど―― 雖然表情不變,只有偶爾會露出笑容——
ジルドファンと踊る方がずっと楽しかった。 與吉魯多凡跳舞還更快樂的多。