Vol.3
そーっと、そーっと。
足許をしっかり見つめて。慎重に一歩を踏み出して。ゆっくり地面に足を置いて。自分の身体のバランスを整えて。もう片方の足をまたゆっくり踏み出す。
雪が降り出していた。
まだ積もるほどじゃないけど、地面はうっすらと白いヴェールをまとっている。
もしかしたらところどころ、凍結しちゃってるかもしれない。
この雪の中を普通に歩いたら、転んじゃう……!
そんな予感がした私は、いつもより早めに寮を出て、そーっとそーっと歩いて、会社へ向かっていた。
普段の何倍も時間がかかったけど、ここまで一度も転んでない。私にしては、上出来。
このまま安全第一で行こう。
そーっと、そーっと。
「よお、アイラ。おはよう」
背後から、知った声が聞こえた。
カヅキが、ぶらぶらと何気ない様子で歩きながら私を追い抜いていく。
「カヅキ、おはっ――」
返事をしようとして、同時に踏み出していた右足がズルリと滑った。
「ふぅあっ!?」
必死に踏ん張る。かろうじて、耐えた。
「……っ」
危なかった。転ばなかったのは、奇跡。
「大丈夫か?」
「は、は、話しかけないで……っ」
両手をじたばたさせて、バランスを取る。
カヅキの方は見ず、自分の足許に集中。しゅうちゅう……!
「い、今、歩くことに、集中してるのでっ」
「無理すんな。ちょっとぐらい遅刻したっていいからな」
私がうなずく横で、カヅキは空を見上げて。
「こりゃ、積もるかもな。ったく、厄介だ」
しみじみと、そんな独り言。
私は足を止めて、カヅキの背中を見た。
いつもより、機嫌が良さそう。厄介だって言ってる割には、この雪に気持ちが高揚しているのかな?
何年か前、今日よりもずっとたくさん雪が降ったときに、私たち二人で雪合戦をしたことを思い出した。あのときも、カヅキ、楽しそうだったな。
私も、空を見上げてみた。
ひらひら舞い落ちてくる、雪の欠片たち。ずっと下を向いて歩いていたから気付かなかったけど、こうして見ると、けっこうキレイ。
「転ぶなよ、アイラ」
カヅキが私の方を振り向かずにそう言って、先に行ってしまった。
「うん」
きっともう聞こえないだろうけど、返事をして。
もう少しだけ、ここで雪を見上げていようって思った。
電撃G's Magazine 2015年3月号掲載
唰-拖、唰-拖。
仔細的看著腳下。謹慎地踏出一步。緩緩地在地面放下腳步。調整自身的平衡。另一隻腳又緩緩地踏出去。
雪正在下著。
雖然還沒積到一定程度,但地面已經涵蓋了一層薄薄的白紗。
或許有些地方已經結冰了也說不定。
在這雪中普通地走的話,就會摔倒……!
有這預感的我比平常還要早地走出宿舍,小心步伐的走向公司。
雖然比平常還要花幾倍的時間,但到此為止一次也沒有摔倒。就算是我也做得很棒。
就這樣以安全第一前進吧。
唰-拖、唰-拖。
「喲!艾拉。早啊」
從背後傳來熟悉的聲音。
香月一邊泰然自若的走著一邊追上我。
「香月,早--」
想要回應的同時踏出去的右腳打滑了。
「呼啊!?」
死命的張腳頂住。勉勉強強的撐住了。
「……」
好危險啊。沒有跌倒簡直是奇蹟。
「沒事吧?」
「先、先、先別和我說話……」
雙手慌慌張張的要取回平衡。
不要去看香月,集中精神在自己的腳下。集中……!
「現、現在、因為我要集中精神在我的腳步」
「別勉強啊。稍微遲到一下也沒關係吧」
我點頭同意了,在一旁的香月仰望著天空。
「看這樣子,大概會在積吧。真是的,麻煩啊」
很感慨的自言自語著。
我停止了腳步,看著香月的背影。
似乎比平時更加高興。雖然說了麻煩,但意外地這場雪讓心情變高漲了嗎?
在幾年前,除了今天也有許多下雪的日子,我回憶起了我們兩人打雪戰的事。那個時候的香月,看起來很開心。
我也試著仰望天空。
雪花紛紛飄落。總是低頭走著所以沒有注意到,但是這樣一看,還挺漂亮的。
「別摔倒囉,艾拉」
香月頭也不回地向我說道,自己先走了。
「嗯」
大概已經聽不到了吧,但還是回應了。
再一會兒也好,想在這裡多仰望一下雪。