偽汽車(にせきしゃ)は、
幽霊の如く存在しないはずの
蒸気機関車が、
鉄道線路上を走るという怪現象。
幽霊機関車(ゆうれいきかんしゃ)などとも呼ばれる。日本に蒸気機関車が導入され、鉄道が普及し始めた
明治時代に日本各地で語られていた。
偽汽車の話は、主に
狐や
狸など変化能力を持つ獣の仕業とされ、それらが汽車に化けている内に本物の汽車に撥ねられ、死体となって発見されるといったものが多い。民俗学者・
柳田國男の著書『たぬき』の中にも、汽車に化けた
狢が線路上で本物の列車にはねられる等の記述が多く見られ、民話研究家・
佐々木喜善も『東奥異聞』に「偽汽車」の題の一文を寄せている。
常磐線での説話。明治時代、
東京都葛飾区亀有など各地で、夜遅くに汽車が線路を走っていると、しばしば怪現象が起きた。汽車の前方から汽笛が聞こえてきたかと思うと、その汽車の走っている線路上を、逆方向からこちらへ向かって別の汽車が走って来る。機関士は「危ない、衝突する!」と慌てて急ブレーキをかけるが、その瞬間、あちらの汽車は忽然と姿を消してしまうのである。
このような怪現象が続いたある晩のこと。1人の機関士が汽車を走らせていると、件の偽汽車が現れ、こちら目掛けて走ってきた。機関士は「こんなものは幻覚に決まっている」と、ブレーキをかけずにそのまま汽車を走らせた。衝突するかと思われたそのとき「ギャッ!」という叫び声と共に、偽汽車は消え去った。
翌朝にその辺りを調べたところ、汽車に轢かれた
狢の死体が見つかった。それを見た人々は、線路を引かれたために棲み処を壊された狢が、機関車となって人々を化かしていたのだろうと噂し、この狢を供養するため、亀有の見性寺に塚を作った。現在ではこの塚の石碑が、見性寺の境内に「狢塚」の名で残されている
[1]。
関連項目[編集]
参考文献[編集]