創作內容

2 GP

【聽寫稿】AIR廣播劇第4卷

作者:幽影│AIR│2011-09-04 14:41:26│巴幣:7│人氣:1055
聽寫:道魔幽影
校對:KotomiFC會長

感想:在下還未夠班啊啊啊啊啊~>_<







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AIR 第4巻 神尾観鈴・DREAM(後編)

01. 承前・観鈴の夢

観鈴:

「夢を見るの」

「不思議な夢」

「夢はね、ずっと続いてるの」

「毎晩続いてるの」

「夏休みが始まった日から」

「わたし、その夢を遡ってる」

往人:「どういう意味だ…」

観鈴:

「うまく言えないけど、わかるの」

「風の匂いとか、肌触りでわかるの」

「空気の流れ、季節の移り変わり…」

「わたしは時間を遡ってるって」

往人:「そんなの、聞いたことないぞ」

観鈴:「ね、往人さん」

観鈴:「もしかしたら、わたし、昔は空を飛べたのかなぁ」

往人:「どうして?」

観鈴:

「わたし、すごく気持ちよく空を飛んでた」

「足の下の雲はいつもより少なくて、海と陸が見渡せた」

「白い波の線が、陸に押し寄せて、消えたりしてた」

「それでね…わたしはそこで悲しんでた」

「どうして、空のわたしはあんな悲しい思いをしているのかな」

往人:「観鈴…お前…」

観鈴:「にはは。どうしたの、往人さん、怖い顔してる」

往人:「っ!そうか…」

観鈴:「往人さんは子供を笑わせるのが仕事なんだから」

往人:「往人さんも笑わなくちゃダメだよ」

往人:「笑う…」

観鈴:「うん!ほら、こうやって…にはは」

往人:「なんだそれ?」

観鈴:「笑ってるの」

往人:「観鈴…夢だろ。おまえには関係ない」

往人:「おまえこそ、いつものように笑ってろ」

往人:「おまえが笑ってないとさ…」

観鈴:「なに?聞こえないよ」

往人:「とにかく笑ってろ」

観鈴:「うん…ぶいっ」

観鈴:「にはは」

BGM:羽根(はね)

観鈴:『どうして、空のわたしはあんな苦しい思いをしているのかな』

往人の母:

『この空の向こうには、翼を持った少女がいる。』

『それは、ずっと昔から』

『そして、今、この時も』

往人:「そこで少女は、同じ夢を見続けている」

往人の母:『同じ大気の中で、翼を広げて風を受け続けている。』

往人:「彼女はいつでもひとりきりで…大人になれずに消えてゆく」

往人の母:『そこで少女は、同じ夢を見続けている』

往人:「そんな悲しい夢を、何度でも繰り返す…」

往人の母:

『何度生まれたとしても、決して幸せにはなれない』

『彼女はいつでもひとりきりで』

『そして、少女のままその生を終える』

『そんな夢…』

往人:「わからない」

往人:「オレだってどうしていいか、なにもわからないんだよ」

往人:「観鈴…」

AIR DREAM 神尾観鈴 後編

観鈴:「夏休みの登校って、少し寂しいね」

往人:「そうだな…」

観鈴:「ね…」

往人:「ん、どうした」

観鈴:「ジュース、買ってもいいかな」

往人:「あ、ああ。好きにしろ」

観鈴:「すごくノドかわいたー」

観鈴:「なにか考えごとしてる?」

往人:「ん? ああ…」

往人:「体は…大丈夫か」

観鈴:「うん、わたし元気なのが取り柄だから」

往人:「そうだよな。おまえから元気とったら、何も残らないもんな」

観鈴:「それってひどいと思う」

往人:「冗談だ」

観鈴:「往人さんは…少し元気ない?」

往人:「いや、元気だ」

往人:「いつだって、腹さえ減ってなかったら、元気なんだ」

観鈴:「往人さんらしい…にはは」

観鈴:「ね、もしかして…またこの町、出ようとか考えてるかな」

観鈴:「ここ、すごくいい町だよ」

往人:「ああ。おまえみたいな呑気な奴にはぴったりの町だな」

観鈴:「往人さんには物足りない?」

往人:「そうだな」

観鈴:「でも…わたしはずっとひとりだったから、すごく楽しいよ」

往人:「いるだろ、友達のひとりやふたり」

観鈴:

「ううん、いないよ」

「往人さんも、知ってるよね」

「友達になれそうになると、わたし癇癪起こして、泣き出しちゃうから…」

「どうしてかわからないけど…小さい時からずっと」

往人:「でも…それでも、おまえはひとりじゃないだろ」

観鈴:「にはは」

往人:「お前には、晴子がいるだろ」

観鈴:「お母さん?」

観鈴:「お母さんはね、本当のお母さんじゃないから」

往人:「え…?」

観鈴:「お母さんは…晴子さんは、本当は叔母さん」

晴子:

『うち、親なんかに向いてないねん』

『あの子もヘンやしな』

『ある日ふっと現れることもあるんや』

観鈴:

「わたしがヘンな子だから、押しつけられたの」

「わたしはここで暮らすことになったけど…」

「叔母さんには自分の生活があるし」

「ひとつ屋根の下だけど、別々に暮らしてるの」

「わたし、本当にずっと晴子叔母さんにも迷惑かけてる」

「だから、何も言わない。贅沢とか…」

「迷惑かけないように、ひとりで遊んでたの」

「ひとりでヘンなジュース探したり、トランプして」

「にはは」

往人:「観鈴!」

観鈴:「え?」

往人:「学校が終わったら、散歩に行かないか?」

往人:「ここで待ってるから」

観鈴:「往人さんから誘ってくれるなんて、すごく意外」

チャイムが鳴り渡る。

観鈴:「あ、いかないとっ…」

観鈴:「往人さん、わたし、海に行きたい」

観鈴:「じゃあね、往人さん」

往人:「海だな。よし、海に行こう」

※      ※      ※      ※

往人:「よ~しっ、動け」

往人:「どうだ、面白いか」

子供:

「ううん」

「ぜんぜん」

「面白くないよね」

「面白くない」

「行こう、行こう」

「うん」

往人:「………」

往人:「ひとつだけ、ひとつだけ観鈴に聞こう」

往人:「それさえ確認できれば、オレはオレなりに答えを見つけられる気がする」

晴子:「なんや、珍しいとこで会うやないか」

晴子:「神社なんかに何の用や」

往人:「それはこっちのセリフだ」

晴子:「……っ。うちかてお参りしたくなる時くらいあるわ」

往人:「うん?」

晴子:「仕事戻らなあかん、さいならや」

往人:「あ、ああ」

02. 観鈴と晴子

観鈴:「ゴメンね」

往人:「いや、別になにもなかったんならいいけどさ」

往人:「オレ、待ってたんだぞ」

観鈴:「うん。ゴメン」

晴子:「帰ったで」

観鈴:「おかえり」

晴子:「あぁっ…」

晴子:「あんた、呑気なもんやな…心配させといて、自分はトランプ遊びかいな」

観鈴:「おやすみ」

往人:「観鈴…」

観鈴:「ゴメンね、往人さん、約束守らないで」

晴子:「あ~あ」

往人:「酒臭い息を吐きかけるな」

晴子:「アンタ、あの子から聞いてへんの?」

往人:「なにかあったのか?」

晴子:

「学校で倒れたて、連絡入ったんや」

「仕方あらへんから、バイクで診療所に連れてって、そのまま家まで送ってきたんや」

「学校で癇癪起こすなんて、ここのところなかったんやで」

「それもな、誰かと遊んでたんやなくて、一人でいて泣き出したっちゅうねん」

往人:「それで神社に…」

晴子:

「なに勘違いしとんのや」

「うちがそんなこと神頼みするわけあらへんやろ」

「ふっ、気にすることあらへん。もう無理なんや」

「誰かと親しくなると、癇癪起こす」

「あんたにべったりやからな。癇癪止めるんはもうあんたには務まらへん」

往人:「でも、アンタだって…」

晴子:

「…うちはあの子に好かれてへんからなー。適任っちゅうわけや」

「まったく、難儀な子やで」

「よっしゃ、飲みなおそう!」

「ほな、土産もあるんや」

往人:「ひとりでやってくれ」

晴子:「なんや、そないなこと言わんと一緒に食おうや」

晴子:「おいしいんやでここの寿司」

往人:「食わない」

晴子:「ひとりより、ふたりで食べたほうがおいしいやん」

晴子:「な、楽しい夜になるでっ」

晴子:「まいった、もう」

往人:「どうして、引き取ったんだよ」

晴子:「なにがや」

往人:「どうして、観鈴を引き取ったんだよ」

晴子:

「なんや…あの子、話してたんかいな」

「引き取ったんやない」

「押しつけられたんやーふふっ」

「嫌や言うてんけどなーはっ」

「しゃあないな、ひとりで食うーかーふー」

往人:「そんなこと言ってるから、あいつはあんたに甘えられないんだろっ!」

晴子:

「なんや…あんた」

「自分の面倒もロクにみれん人間が、よう、他人に意見できるな」

「自分で恥ずかしい思わんのかいな」

「ずっとあんた、タダメシ食らってるだけやないか」

「うちなんかに…」

「うちなんかに、あの子、甘えたいわけあらへんやろ」

※      ※      ※      ※

往人:「観鈴」

往人:「寝たのか」

往人:「入るぞ」

往人:「観鈴…凄い部屋だな、一体いくつあるんだ、恐竜グッズ」

観鈴:「たくさんあるよ」

往人:「これだけよく集めたな」

往人:「でも、他にいっぱい可愛い動物がいるだろ。パンダとか、シロクマとか」

観鈴:「パンダやシロクマにもない魅力があるの、恐竜には」

往人:「どんな」

観鈴:「ロマン」

往人:「ロマン?」

観鈴:「そう、恐竜はすごく長い時間栄えて…でも絶滅しちゃって、今ではもう過ぎ去ったもの」

観鈴:「終わりを迎えてしまったものなんだよ」

観鈴:「なんだかせつなくて、きゅんとなるの」

往人:「そうだな。きゅんとなるな」

観鈴:「往人さん、馬鹿にしてる」

観鈴:「ね、なに?」

往人:「……?」

観鈴:「往人さん、なにかようがあったんでしょ?」

観鈴:「お母さんと喧嘩でもしたの」

観鈴:「大きな声聞こえたよ」

往人:「いや、喧嘩なんかじゃないよ」

観鈴:「うん、喧嘩なんかしちゃダメ」

往人:「ああ」

往人:「なあ、観鈴」

観鈴:「うん?」

往人:「思い出してほしいことがあるんだ」

観鈴:「いいよ、なにかな」

往人:「夢の中のおまえには…翼があるか?」

観鈴:「翼…?」

往人:「夢の中で、おまえは空を飛んでるんだろ?」

観鈴:「あ、うん。でも、自分に翼があるかなんて、考えたことないよ」

往人:「そっか…」

観鈴:「うん…」

観鈴:「でもどうして、そんなこと聞いたのかな」

往人:「いや、なんでもない…」

観鈴:「そう、なんでもないんだ」

往人:「ああ、お休み」

観鈴:「うん」

※      ※      ※      ※

往人の母:

『…海に行きたいって、その子は言ったの』

『でも、連れていってあげられなかった』

『なにひとつ、してあげられなかった』

『夏はまだ、はじまったばかりなのに…』

『知っていたのに、わたしはなにもできなかった』

往人:『なにも…』

往人の母:

『誰よりもその子の側にいたのに、救えなかった…』

『女の子は、夢を見るの』

『最初は、空の夢』

『夢はだんだん、昔へと遡っていく』

『その夢が、女の子を蝕んでいくの』

往人:「……!」

往人:「もう…こんな時間」

往人:「……っ!寝違えたか…痛っ」

往人:「観鈴…」

※      ※      ※      ※

往人:「観鈴…観鈴!遅刻するぞ、観鈴」

往人:「入るぞ」

往人:「…どうしたんだ?」

観鈴:「足が痺れたみたいになってるの」

往人:「昨日、歩きすぎたんじゃないのか」

観鈴:「ううん、いつもはすぐに治るの」

往人:「いつも?」

観鈴:「この頃、朝はだいたいこんな感じだから」

観鈴:「うん、もう大丈夫…わ!」

往人:「おい!」

観鈴:「にはは。転んじゃった」

往人:「病院行ったほうがいいんじゃないか」

観鈴:「大丈夫。もう少し休めば、きっと…」

観鈴:「でも、授業始まっちゃうね」

往人:「気にするな。行ける状況じゃないだろ」

観鈴:「そうだね…残念」

往人:「今日は寝てろ」

観鈴:「でも、ご飯…」

往人:「その辺のもの勝手に食べるから心配するな」

観鈴:「そうしてくれると、嬉しい」

往人:「夏風邪じゃないのか。変なジュースばかり飲むからだ」

観鈴:「にはは。そうかも」

※      ※      ※      ※

晴子:

「イッター…」

「頭いたいわ…どいてや」

「はぁ…ふぅーうぅ!」

「なにつくっとるんや?」

往人:「粥(かゆ)…観鈴に」

晴子:「たまごのにおいきくわ、ちょっとあかんわ、それ」

往人:「観鈴を看てやってくれ。具合が悪いんだ」

晴子:「はっ…あれやな。落ちてるもんでも拾うて食うたんやろ」

往人:「顔ぐらいだしてやれよ」

晴子:「頭痛いねん。それに、あの子もいまさらうちが顔出したからって元気なんかでぇへんよ」

晴子:「あんたがそばにおったったら、それでええやろ」

晴子:「さぁ、うち昼まで寝るから、後よろしゅう」

晴子:「ほな、おやすみ」

03. 海へ行きたい

観鈴:「おいしい」

往人:「それ食い終わったら、ちょっと寝ろ」

観鈴:「ご馳走さま」

観鈴:「よし」

往人:「なにしてるんだ?」

観鈴:「トランプしよう、往人さん」

往人:「あのな、それじゃ休んだ意味がないだろ?」

観鈴:「だって、眠りたくないもん…」

往人:「どうして?」

観鈴:「夢、見たくないの」

往人:「空の夢じゃなかったのか?」

観鈴:

「ううん」

「空の夢だったけど…今までとぜんぜん違った」

「ぽっかりと月が浮かんでて、すごく明るかった」

「わたし、空に昇ろうとしてた」

「体中がずきずき痛くて動かないのに、ずっと高くまで昇ろうとしてた」

「そうしたら…」

「声が聞こえてきたの」

往人:「声?」

観鈴:

「たくさんの人の声」

「わたし、それでわかった」

「みんなが、わたしを閉じ込めようとしてるって」

「耳の中がわんわん鳴って、それ以上昇れなくなって、それで…」

往人:「閉じ込められる」

観鈴:「もう、見たくないな…」

往人:「ただの夢だろ。気にするな」

観鈴:「うん。往人さん、暇…だよね?」

往人:「ん?なんだ?」

観鈴:「うん。海へ行こう」

往人:「そっか。約束したんだったな」

観鈴:「うん。浜辺で遊ぶの」

観鈴:「砂を掘ったり、波から逃げたりしながら」

往人:「俺も…か?」

観鈴:「いいよ、往人さん見ていてくれるだけでも」

往人:「いや、いいよ。約束だからな」

観鈴:「ほんと? うれしい」

往人:「でもな…」

観鈴:「うん?」

往人:「今日はやめておこう」

観鈴:「え?」

往人:「おまえ、まだ具合悪いだろ」

往人:「よくなってからにしよう」

観鈴:「うーん…」

往人:「おまえ、楽しいことが待ってたら、頑張れるんだろ?」

観鈴:「うん…そだね」

観鈴:「じゃ、明日いこうね」

往人:「ああ。そうなるように、頑張れ」

観鈴:「うん」

※      ※      ※      ※

往人の母:

『夢はだんだん、昔へと遡っていく』

『その夢が、女の子を蝕んでいくの』

『最初は、だんだん身体が動かなくなる』

『それから、あるはずのない痛みを感じるようになる』

『そして…』

『女の子は、全てを忘れていく』

『いちばん大切な人のことさえ、思い出せなくなる』

『そして、最後の夢を見終わった朝、女の子は…』

『やさしくて、とても強い子だったの』

『だから…』

『往人。今度こそ、あなたが救ってほしいの』

『その子を救えるのは、あなただけなのだから』

往人:

「……!」

「なんなんだよ、これ」

「……っ、こんな時間に、誰だ?」

「こんな時間から仕事か」

晴子:「アンタか?仕事はしばらく休むことにしたんや」

往人:「その荷物…」

晴子:「旅行や。ふらりひとり旅、温泉巡りや」

往人:「アンタ…今観鈴がどういう状況か…」

晴子:「ええ温泉が仰山あんねん」

晴子:「温泉浸かって、酒飲んで、ゆっくりすんねん」

往人:「なに考えてんだ、アンタは…」

晴子:「なんや文句あるんか。うちの勝手や」

往人:「観鈴はどうするんだよ」

晴子:「あんたに任せる」

晴子:「観鈴も、あんたのこと好いとる。それにアンタ、意外としっかりしとる」

晴子:「せやから、うちがおらんでも大丈夫、面倒見たってや、ほな」

晴子:「なんや、見送りはいらんよ」

往人:「…観鈴は今、夢を見ている」

往人:「その夢が、観鈴をこんな風にしてるんだ」

晴子:「いきなりなに言い出すねん」

往人:「そのうちに観鈴は、あるはずのない痛みを感じるようになる」

往人:「それから、観鈴は忘れていく」

往人:「俺のことも、あんたのことも」

往人:「最後の夢を見終わった朝…」

晴子:「夢を見終わったら、なんや」

往人:「たぶん、観鈴は…」

往人:「観鈴は死んでしまう」

晴子:「言うてええ冗談と、悪い冗談があるで」

晴子:「うちにはうちの事情があんねん。あんたのタワゴト聞いとる暇ない」

往人:「娘を置いて温泉に行くのが、あんたの事情か?」

晴子:「観鈴はうちの娘やあらへん」

晴子:「…ほな、うち行くわ」

晴子:「ひどなるようやったら、病院連れてったってや」

※      ※      ※      ※

往人:「観鈴…」

観鈴:「うん…」

往人:「オレは?どうしたらいい…」

観鈴:「海…」

往人:「そうだな。海へ行こう、観鈴」

04. もうひとりの私

往人:「観鈴…?もういいのか、おまえ…」

観鈴:「うん、大丈夫」

観鈴:「それに朝食作らないと、誰かさんがお腹ぐぅぐぅ空かせちゃうし」

往人:「寝てろよ。俺が作るから」

観鈴:「いいの、昨日往人さんには作ってもらったし、それにこういうことしてないと、本当に病人になっちゃったみたいだし」

観鈴:「うん」

とんとん…

往人:「おまえ、それで足りるのか?」

観鈴:「うん。昨日ずっと寝てたから、あんまりお腹空いてない」

往人:「そうか」

観鈴:

「あ、そうだ」

「お母さん、しばらく留守にするって」

「知ってたのか」

「うん」

往人:「アイツ…」

観鈴:「違うの」

往人:「?」

観鈴:「いいの、わたし、お母さん大好きだから」

観鈴:「お母さんには自由にしていてほしいの」

観鈴:「また、夢を見たよ」

往人:「?」

観鈴:「いい夢だった」

往人:「空の夢か?」

観鈴:「ううん。今度は夜の森」

観鈴:「森の中で、話をしてるの」

往人:「誰と?」

観鈴:

「よく覚えてないけど…」

「すぐ近くに、誰かが寄り添ってくれてた」

「わたし、その人に『海って何だ?』って訊いた」

「そうしたら、教えてくれたの」

「海のこと、たくさん」

「話してるだけで、すごく楽しかった」

「言葉を全部包んで、いつまでもしまっておきたいって思ったぐらい」

「そのぐらい、幸せだった…」

「あんな夢なら、もっと見たいな」

往人:「なら、寝てろよ」

観鈴:「だって…もったいないよ」

観鈴:「きっと、夏は短いから」

往人:「観鈴…海に行くか」

観鈴:「往人さん、言ってることヘン」

観鈴:「寝ろって言ったり、海に行こうって言ったり」

往人:「気が変わったんだ」

観鈴:「でも…」

往人:「行きたいんだろ?」

往人:「まだ日も早いし、ゆっくり行けばきっと大丈夫だ」

往人:「俺が連れてってやるから」

観鈴:「うんっ」

※      ※      ※      ※

往人の母:

『…海に行きたいって、その子は言ったの』

『でも、連れていってあげられなかった』

往人:「そんなこと…」

観鈴:「ん?なにか言った?」

往人:「いや、なんでもない」

観鈴:「往人さん、また怖い顔してる、ダメだって言ってるのに」

往人:「こう…だっけ?」

観鈴:「違うよ、こう…にはは」

往人:「なんだその顔」

※      ※      ※      ※

観鈴:「ちょっと待って…」

往人:「ああ」

往人:「観鈴、肩につかまれ」

観鈴:「うん…ごめんね」

往人:「暑いな…大丈夫か」

観鈴:「うん、大丈夫」

往人:「よし」

往人:「ほら、もっとしっかりくっ付けよ、オレの首に手を掛けて」

観鈴:「あ…ごめんね…」

観鈴:「すぐに…治るから…」

往人:「あ、オレ…」

観鈴:「ごめんね…私が悪いの…」

観鈴:「海は、また明日…」

観鈴:「にははっ…」

観鈴:「あ…うぐ…」

※      ※      ※      ※

往人:「なあ、観鈴」

観鈴:「うん?」

往人:「夕飯は俺が作ってやるよ」

往人:「何見てるんだよ」

観鈴:「往人さん、やさしくなったね」

往人:「そうか?」

観鈴:「うん、今までならきっとそんなこと言ってくれなかったよ」

往人:「そうだな」

観鈴:「往人さんの知ってること、教えて」

往人:「?」

観鈴:「往人さんが探してる人とわたしの夢、関係あるんだよね」

往人:「関係ないんじゃないか」

観鈴:「だって、この前、わたしに訊いたよね」

観鈴:「夢の中のわたしに、翼があるかって…」

往人:「あんなもの冗談だ。忘れろ」

観鈴:「ううん、往人さん真剣な目してたよ」

観鈴:「聞いてくれる?」

往人:「うん?」

観鈴:「わたしが、いろいろ考えて辿り着いた答え」

往人:「あぁ?」

観鈴:

「わたしの夢は、もうひとりのわたしなの」

「その子には翼があって、きっと自由に空が飛べた」

「それなのに、今、その子は苦しんでいるの」

「だから、わたしに何かを伝えようとしてる…」

「だから…」

「わたし、がんばって夢を見る」

「もっと夢を見れば、わかるかもしれないから」

「その子がどうして苦しんでるのか」

「そうすれば、その子のこと、助けてあげられるかもしれない」

「にはは…いい考え。ナイスアイデア」

「そうしよーっと…」

往人:「馬鹿っ!」

観鈴:「にはは…わたし、馬鹿だから」

往人:「なあ、観鈴…」

往人:「おまえの言う通りかもしれない」

往人:「でもな、夢の中のおまえが苦しんでいるとしたら…」

往人:「このまま夢を見続けたら、おまえもそいつと同じことになるかもしれない」

観鈴:「ちょっと休んでいいかな」

往人:「あ…ああ」

観鈴:

「わたしが夢を見はじめたのは、きっと偶然じゃないんだよね?」

「わたし、今年の夏は特別だって思った」

「がんばって、友だちをつくろうって思ってた」

「そうしたら、往人さんに会えた」

「そうして、夢を見はじめた」

「きっと全部、ひとつにつながってるんだよね」

「だから、がんばりたいな」

「この夏を、いちばん幸せにしたいから」

「往人さんと出逢えた夏だから」

※      ※      ※      ※

往人の母:

『知っていたのに、わたしはなにもできなかった』

『誰よりもその子の側にいたのに、救えなかった…』

『友達が近づくだけで、その子は苦しがる』

『だからその子は、ずっとひとりぼっち』

05. 往人さん、ありがとう

往人:「観鈴!」

往人:「大丈夫か?」

観鈴:「違うの、そうじゃないの」

往人:「夢を見たのか?」

観鈴:「うん…」

観鈴:「悲しかったの」

観鈴:「何度やっても、うまくいかなかった」

観鈴:「もう、時間がないのに」

往人:「観鈴…」

往人:「オレ…ここに居てもいいか?」

観鈴:「え?」

往人:「なにができるかわからないけど、お前のそばにいるよ」

観鈴:「往人さん…」

往人:「ここに居てもいいか?」

観鈴:「うん」

※      ※      ※      ※

観鈴:「…往人さん、往人さん」

往人:「あ、すまん。オレのほうが寝ちまって」

観鈴:「ううん、往人さん、すごくよく寝てた」

観鈴:「もう起きないかと思った」

往人:「そんなわけないだろ」

観鈴:「にはは」

往人:「また夢を見たのか」

観鈴:「今度はね、ちょっと楽しい夢。だけど、ちょっと悲しい夢」

往人:「なんだよ、それ」

観鈴:

「にゃは、夜なのに、空がすごく明るいの」

「音楽と笑い声が聞こえて」

「たくさんの人が、輪(わ)になって踊ってた」

「あれ、きっとお祭り」

「みんなすごく楽しそう…」

「でも、わたしはそれを遠くから見てた」

「あそこはわたしの場所じゃないって、知ってたから…」

「お祭り、わたしも行きたいな」

「でも、ちょっと無理だね」

往人:「…おまえなぁ」

往人:「夢の中でぐらい、もっと積極的になれよ」

往人:「友達をつくるとか」

観鈴:「にゃは、友達、いるから」

往人:「どこに?」

観鈴:「往人さん、友達」

往人:「俺は友達というより…なんなんだろうな」

観鈴:

「にはは」

「でも、往人さんナイスアイデア」

「次の夢で試してみる~へへ」

「往人さん、やっぱり…海に行きたい」

往人:「観鈴…」

観鈴:「ダメかな?」

往人:「いや」

観鈴:「大丈夫だよ、私」

観鈴:「今度はちゃんと海まで行けるよ」

観鈴:「ほら…わ!」

往人:「観鈴!」

観鈴:「鼻、ぶつけちゃった…にはは」

観鈴:「…あれ?おかしいな」

往人:「観鈴…お前」

観鈴:「足が…動かない」

往人:「観鈴…」

観鈴:「でも、治るよね」

観鈴:「にはは…すぐには治らないかな?」

往人:「今日は休んでろ」

往人:「なっ?海なんていつでも行ける」

観鈴:「ダメ」

観鈴:「今日は遊ぶって決めたの」

往人:「………」

観鈴:「そうだ、往人さん、トランプしよ」

観鈴:「届かない…」

往人:「ん」

観鈴:「わっ…」

往人:「頼むから、無理しないでくれ」

観鈴:「無理なんかしてないよ」

観鈴:「宿題、全然やってない」

往人:「そんなことしてたら、治るものも治らなくなるぞ」

観鈴:「絵日記つけないと」

往人:「明日やればいいだろ」

観鈴:「絵日記はためたらダメ」

観鈴:「天気とか、わからなくなるから」

観鈴:「それに、昨日のぶん、まだ書いてないし…」

往人:「わかった。海はまたにしよう、その代わり、絵日記はやってもいい」

観鈴:「うん」

往人:「どこにあるんだ?俺が取ってやる」

観鈴:「机の引き出し」

観鈴:「往人さん、人の日記見たらダメ」

往人:「本当に、ちゃんと書いてたのか」

観鈴:「…今、意外そうな顔した」

観鈴:「あ、面白かった?」

往人:「いや」

観鈴:「そう?自信作(じしんさく)なんだけどな」

観鈴:「クラスの自由課題でいちばん楽しいの」

往人:「はっきり言っておまえには日記を書く才能がない」

観鈴:「え、そうかな」

観鈴:「そんなことないと思うけどな」

往人:「観鈴、これからはおまえがやったことじゃなく、やりたいことを書け」

観鈴:「え?それ日記じゃない」

往人:「いや、日記だ」

往人:「書いたことは全部、俺がかなえてやるから」

観鈴:「色鉛筆(いろえんぴつ)、ほしい」

往人:「っ…ああ」

観鈴:

「海に行きたい。一日中海で遊んで、へとへとになって帰ってくるの」

「それからね、カラスさんに触りたい」

「変なジュース、もっといっぱい飲みたい」

「お祭りにも行きたいし…」

「それから…それから…」

「ありがとう、往人さん」

06. 大切な人

往人:

「見上げると、巨大な入道雲(にゅうどうぐも)が空を覆っていた」

「ここからじゃ見えない場所」

「今も観鈴は、その場所にいるのだ。ひとりきりで」

「観鈴ひとりが、雲の上をさまよっている」

「どんなに手を伸ばしても、地上からではその観鈴には手が届かない」

観鈴:

「今朝見たのは、旅の夢」

「わたしは旅をしてた」

「何かを探す旅」

「森の中を、何日も何日も歩いた」

「辛かったけど、わたし、がんばった」

「大切な人たちが、側にいてくれたから…」

往人:「大切な人たちって、誰のことだよ?」

観鈴:「よくわからないの」

観鈴:「でも覚えてるの。大切な人。往人さん」

往人:「ん?」

観鈴:

「本当は知ってるんだよね、往人さん」

「私の夢が、私をこんな風にしてるって」

「夢を見るたびに、私はだんだん弱っていって」

「最後はきっと…空にいる女の子と、同じになってしまうって」

往人:「そんなわけあるか」

観鈴:「にはは…怒られちゃった」

観鈴:「でも、わたしが思い出してあげなかったら、その子がかわいそうだから…」

観鈴:「だからわたし、がんばる」

往人:「もうひとりのおまえのことなんて、考えなくていい」

往人:「おまえはここにしかいないんだ」

※      ※      ※      ※

往人:「誰でもいい、誰か…」

電話:『…はい、川口ですけど』

往人:「川口…茂美(かわぐち しげみ)でいいのか…?」

電話:『はい、そうですけど…』

往人:「今、神尾観鈴の家からかけている。おまえ、観鈴のクラスメイトだよな」

電話:『はあ、そうですけど…』

往人:「十分怪しい電話だってことはわかってる。でも、頼みがあるんだ」

往人:「今すぐ、観鈴…神尾のところまで遊びに来てくれないか?」

電話:『ええと…すみません、私、今出かけるところで、すみません』

往人:「頼む!待ってくれっ!」

往人:「具合がよくないんだ」

往人:「俺だけじゃどうにもならない。誰かの助けが必要なんだ」

電話:『えっ…?神尾さん、また泣いてるんですか?』

往人「知ってるのか?」

電話:『ええ、クラス替えの時、近くの席だったから、仲良くなりたかったんですけど…』

電話:『神尾さん、泣いちゃって。理由を聞いても教えてくれなくて』

電話:『なんか、それっきり気まずい感じになっちゃって…』

往人:「それは観鈴が悪いわけじゃないんだ」

往人:「とにかく、来てくれないか?」

電話:『でも…』

往人:「頼む。今すぐでなきゃならないんだ」

電話:『失礼ですが、あなたは…?』

往人:「オレ?ええと、オレは…」

観鈴:「往人さん、受話器、貸して」

往人:「観鈴…」

観鈴:

「神尾です」

「うん…そう。そうだよね。にはは…」

「そうなんだ…うん。来なくてもいいから…」

「大丈夫だから…にははっ…それじゃ」

BGM:羽根

往人:「何やってるんだよ、おまえはっ!?」

往人:「なんで自分からひとりになろうとするんだよ!?」

観鈴:「川口さん、いい人だから」

観鈴:「忙しいのに、呼び出したらいけないの」

往人:「おまえと友達になりたいって言ってたぞ」

往人:「おまえのこと、心配してたのに…」

観鈴:

「うん。知ってる」

「川口さん、すごくいい人」

「みんなすごくいい人」

「往人さんも、すごくいい人」

「だから、迷惑かけちゃいけないの」

往人:

「嘘つくなよ」

「友達が欲しいんだろ?」

「ひとりは嫌なんだろ?」

「やりたいことがたくさんあるんだろ?」

「誰かと一緒に、思いっきり遊びたいんだろ?」

観鈴:「往人さんがいい」

観鈴:「往人さん、友達」

観鈴:「往人さんがいてくれたら、他には誰もいらない」

07. 二人の心

観鈴:「…あれ、きっと、隣町の花火大会」

往人:「見に行ったこと、あるのか?」

観鈴:「ううん」

観鈴:「でも、家の前に出れば、少しだけ見えるの」

観鈴:「わたし、いつも、ひとりで見てた…」

往人:「見てみたいか?」

観鈴:「ううん」

観鈴:「こうしてるだけで、きれいだってわかるから」

往人:「そうだな…」

往人:「観鈴?大丈夫か?観鈴…」

観鈴:「大丈夫…だから…行かないで…」

観鈴:「どうして…みんな…わたしだけ…残して…」

観鈴:「はぅっ…」

往人:「観鈴!…観鈴!」

往人:「いいか…辛くても耐えろよ…」

往人:「俺がおまえのそばにいるから」

観鈴:「往人さん…」

往人:「俺がおまえのそばにいるから…」

観鈴:「本当に…?」

往人:「ああ」

観鈴:「本当に、ずっと一緒に居てくれるの?」

観鈴:「本当に、ずっと…こうして強く抱きしめていてくれるの?」

往人:「ああ」

観鈴:「ありがとう、往人さん」

往人:「ああ」

観鈴:「往人さん、ずっと一緒にいてね」

往人:「ああ、わかってる」

観鈴:「ずっと…ずっと、一緒だね」

往人:「ずっとずっと一緒だ」

※      ※      ※      ※

観鈴:「往人さん…往人さん…往人さんっ!」

往人:「ん…」

観鈴:「よかった…もう起きないかと思った…」

往人:「あ…オレ、どうして」

観鈴:「どうしたの…?」

往人:「べつにどうもしない」

観鈴:「どうもしなくて、そんな顔にならないよ…」

往人:「もともとこんな顔なんだ」

観鈴:「往人さん…」

往人:「ベッドに戻れよ」

観鈴:「ううん…」

往人:「観鈴、ベッドに戻れ」

観鈴:「往人さん、放っとけないよ…」

往人:「俺は大丈夫だって。ちょっと寝れば治る」

観鈴:「わたしのベッド使っていいよ」

往人:「な、観鈴。あんまり俺を困らせるな」

観鈴:「うん…」

往人:「ほら」

往人:「少し眠れ。側にいてやるから…」

観鈴:「うん…」

観鈴:「往人さん」

往人:「何だ?」

観鈴:「わたしの…せいかな?」

往人:「違う。少し休め」

観鈴:「うん」

往人:「…なんだ、これは?」

往人の母:『二人の心が近づけば、二人とも病んでしまう』

往人の母:『二人とも助からない』

往人:「どういうことなんだ」

往人の母:『誰よりもその子の側にいたのに、救えなかった…』

往人:

「どうして救えなかった?このせいなのか?」

「観鈴を助けようとする行為そのものが、観鈴を病ませていく」

「そして、助けようとした人間も病んでいく…」

「だからなのか」

往人の母:『二人の心が近づけば、二人とも病んでしまう』

往人の母:『そして、二人とも助からない』

往人:

「それなのに、俺は観鈴の側に居続けた」

「誰よりも観鈴の側にいたいと思った」

「そして、オレまでもが病み始めた」

「オレたちの心が、近づきすぎたのか」

「…でも、他に何ができたというんだ?」

往人の母:『二人の心が近づけば、二人とも病んでしまう』

往人:「それなら、心が遠ざかれば、まだ間に合うかもしれない」

観鈴:

『往人さん…ずっと一緒にいてね』

『海に行きたいな』

『砂浜で遊ぶの』

『かけっこしたり』

『水の掛けあいしたり…』

『ずっと…』

往人:「観鈴が望むもの」

観鈴:『一緒だね』

往人:「誰もが飽きるほどやったはずの、他愛のない子供の遊び」

往人:「たったそれだけのことさえ、俺は与えることができなかった」

観鈴:

『そして、最後に』

『また明日、って…』

『でも、今は我慢』

『その方が、海まで行けた時にもっと嬉しくなるから』

『観鈴ちん、ふぁいとっ』

08. 一緒にいきたい

観鈴:「う…往人さん、その荷物…」

往人:「オレは、ここを出ていこうと思うんだ」

観鈴:「え…?」

往人:「最初はバス代を稼ぐまでだと思っていた。けど、色々あって、長居になってしまったからな…」

観鈴:「お金…まだ稼げてないよね」

往人:「そんなものいらないんだよ。最初からいらなかったんだ」

往人:「歩けばいいんだからな」

観鈴:「ずっと、一緒にいてくれる…そう言ってくれた」

往人:「性分なんだ。俺は一カ所に留まっていられないんだ」

観鈴:

「そんな…これからだって思ってたのに…」

「これからがんばろうとしてたのに…」

「往人さんにいてほしいな…」

「ずっといてほしいな…」

往人:「観鈴…おまえが俺を苦しめてるんだよ。わかるか」

観鈴:「え…?」

往人:

「おまえはずっとひとりぼっちだった」

「今、だんだん身体が動かなくなってきている」

「このままいくとおまえは、あるはずのない痛みを感じるようになる」

「そして…」

「おまえは、全てを忘れていく」

観鈴:「私…忘れないよ」

往人:「いや、お前はいちばん大切な人間のことさえ、思い出せなくなる」

観鈴:「私…」

往人:「そして、最後の夢を見終わった朝…」

往人:

「お前は…」

「お前が俺を選んでしまったからだ…」

「二人の心が近づけば、二人とも病んでしまう」

「二人とも助からない」

「これ以上おまえと居続けたら、俺のほうが先に倒れる」

観鈴:「往人さん…」

往人:「オレはおまえから逃げることにしたんだ」

往人:「オレはこの町を出て、もうおまえと出会うことのない場所までいく」

観鈴:「やっと、ひとりじゃなくなったのに…」

観鈴:「いつ、出るの?」

往人:「今日」

観鈴:「すぐ?」

往人:「ああ。今すぐだ」

観鈴:「じゃ、これでさよならだね…」

往人:「そうだな」

観鈴:「往人さん、私にできた初めての友達」

観鈴:「きっと、往人さんいなかったら、もっと早く諦めてたと思う」

往人:「じゃあな」

観鈴:

「あのね、往人さん」

「あのね、今朝の夢…」

「わたし、ひとりぼっちで、閉じ込められてた」

「淋しかった」

「誰かが連れ出してくれるのを、ずっと待ってた…」

「わたし…」

「わたしね…」

「一緒にいきたい」

「往人さんと一緒にいきたい」

「ついていったら、ダメかな」

往人:「バカか、おまえは…」

往人:「俺はこの家を去りたいわけじゃない」

往人:「お前から、離れたいだけなんだ」

観鈴:「そっか…ごめんね。またバカなこと言って」

観鈴:「じゃあ、ばいばい。元気でね」

往人:「ああ」

往人:「おまえ…頑張れよな」

観鈴:「うん」

往人:「ひとりでも、頑張れよな」

観鈴:「うん、ひとりでもがんばる」

往人:「おまえは、強いもんな」

観鈴:「うん、わたし強い子」

往人:「よし」

往人:「じゃあな」

※      ※      ※      ※

往人:

「バスが、何台もオレの前を通り過ぎていった」

「ベンチに座っているオレを見て、バスは止まり」

「オレに乗る気がないことがわかると、ドアを閉めて走り去った」

「誰もバスには乗らなかったし、誰もこの町には降りなかった」

「そうだ、すべてここから始まったのだ」

『そこの子供たち』

子供たち:『ん?』

往人:

『今からオレが、芸を見せてやるからな』

「それはこれからも、どこの町でも繰り返されるだろう」

『さあ、楽しい人形劇の始まりだ』

「オレは色々な場所に降り立ち」

「そして、この人形を動かして、子供に見せるだろう」

観鈴:『こんにちはっ』

観鈴:『あの、こんにちはっ』

往人:『オレか?』

往人:「ここに辿り着いた日…」

往人:『なんかようか?』

往人:「その日から…」

観鈴:『遊びに行きませんか?』

往人:

「…ずっと夢を見ていたような気がする」

「どこまでも、どこまでも高みへ」

「空を目指した夢」

「けど、そこには届かなかった」

「ただ、ひとり、そこには少女がいた」

「ずっと、今も風を受け続けている」

「彼女の夢は、続いてゆく」

「これから先もずっと」

※      ※      ※      ※

往人の母:『この人形はね、ひとを笑わせる…楽しませることができる道具なの』

往人の母:『動かしてみて』

往人:『できない。どうすればいいのかわからない』

往人の母:『こうするのよ。指先を当てて…』

往人の母:『思えば通じる。思いは通じるから』

往人:『思い?』

往人の母:

『今、往人はどう思ってる?』

『人を笑わせたいと思ってる?』

『そうじゃないと動かないよ?』

『動かしたい思いだけじゃなくて、その先の願いに触れて、人形は動きだすんだから』

『往人は誰にも笑ってほしくない?』

『私は笑って欲しいな。出会ったひとたち、みんな』

09. 願い

往人の母:『私はずっと、旅を続けてきたの』

往人の母:『空にいる少女を探す旅』

観鈴:『海に行きませんか?』

往人の母:『わたしのお母さんも、お母さんのお母さんも、ずっとそうしてきた』

観鈴:『遊びに行きませんか?』

観鈴:『昨日、遊んでたんですよ』

往人の母:『そしてみんな、その子に出会った』

往人の母:『とても悲しい思いをした…』

観鈴:『ずっと眺めてたんです』

往人:「何度めの夏だろう」

観鈴:『楽しそうだなぁ、わたしも遊びたいなって』

往人:「この町で、ひとりの少女と出会った」

観鈴:『神尾観鈴。観鈴って呼んでほしい』

往人:「そいつはいつだって笑顔で俺のそばにいた」

観鈴:『往人さん』

往人の母:『誰よりもその子の側にいたのに、救えなかった…』

観鈴:『観鈴&往人さん』

観鈴:『カラス、触ってくる』

観鈴:『砂浜で遊ぶの…』

往人:「青空の下で、続いてきた夏」

観鈴:『かけっこしたり、水の掛けあいしたり』

往人:「ずっと隣にいた観鈴」

観鈴:『そして、最後に『また明日』ってお別れするんです』

往人:「いつだって笑っていた観鈴」

往人の母:

『二人の心が近づけば、二人とも病んでしまう』

『二人とも助からない』

『だから、その子は言ってくれたの』

『わたしから離れて、って』

『やさしくて、とても強い子だったの』

『だから…』

往人:「オレは見つけていた」

往人の母:『今度こそ、あなたが救ってほしいの』

往人の母:『その子を救えるのは、あなただけなのだから』

往人:「オレが探していたもの…」

往人の母:

『この人形の中にはね。叶わなかった願いが籠められているの』

『わたしのお母さんも、お母さんのお母さんも、ずっとそうしてきた』

『衰えてしまう前に、この人形に『力』を封じ込めてきた』

『いつか誰かが、願いを解き放つ時のために』

観鈴:『私、海に行きたい』

往人の母:『だからわたしも、願いのひとつになる』

往人:「ずっと昔から探してきたもの…」

往人の母:

『今、わたしが話していることを、あなたは全て忘れてしまう』

『あなたが思い出さなければ、わたしたちの願いはそこで終わる』

『今からこれは、あなたのもの』

『これをどう使うかは、あなたの自由』

『ただお金を稼ぐためだけに、人形を動かしてもいい』

『旅をやめてしまってもいい。人形を捨ててしまってもいい』

『空にいる女の子のことは、忘れて生きていってもいい』

『でもね、往人…』

『きっと思い出す時がくる』

『どこかの町で、あなたはきっと女の子に出会う』

『やさしくて、とても強い子』

『その子のことを、どうしても助けてあげたいと思ったら…』

『人形に心を籠めなさい』

『わたしはあなたと共にあるから』

『その時まで…』

往人:

「オレはただ、笑ってくれる誰かがそばにいればよかった」

「オレはそうして、ひとを幸せにしたかった」

「自分の力で、誰かを幸せにしたかった」

「そうしていれば、よかったんだ」

「ずっと探していたものとは、そんなありふれたものだったんだ」

観鈴:『とても楽しかった』

子供たち:

「このお兄さん、さっきからヘンだよ」

「暑いからかな」

「わーっ!」

「きゃーっ!」

往人:「待てっ」

女の子:「きゃーっ!」

往人:「頼むっ、助けてくれ!」

女の子:「え…?」

往人:「とりあえずこれを見てほしいんだ」

女の子:「あ、人形さん」

往人:「今からこの人形さんが歩いてみせるからな」

女の子:「ほんと?」

往人:「ああ」

女の子:「わぁ…すごい」

往人:「どうだ?」

女の子:「ふしぎ~」

往人:「面白いか?」

女の子:「ふしぎだけど…面白くはないよ」

往人:「だよな…」

往人:「だからな、助けてほしいんだ」

女の子:「なにを?」

往人:「どうすれば、おもしろくなるか。見ている人が笑えるようになるか」

女の子:「うーん…」

往人:「どうしたらいいと思う」

女の子:「ちょっと待ってね…」

女の子:「みんなぁーっ」

女の子:「あのねあのねー、このお兄ちゃんがねー」

※      ※      ※      ※

往人:

「観鈴…」

「ここ、座るな」

「オレ、戻ってきたんだ」

「もうどこにもいかない」

「おまえと一緒にいて、おまえを笑わせ続ける」

「そうすることにしたんだ」

「だからな、観鈴…起きろ」

「観鈴…オレだ。観鈴…観鈴…」

観鈴:「う…ん…」

往人:「観鈴、わかるか。オレだ」

観鈴:「…往人さん…」

往人:

「辛いなら、そのままでいい」

「いいか、これからお前のために人形を歩かせてみせるから」

「だから、よおく見てろよ」

「コツ掴んだんだ。絶対面白いから」

「だから、また笑えるようになる」

「な、おもしろいだろ」

「観鈴、見てくれてるか」

「おかしいだろ」

「観鈴、起きろよ」

「見てくれよ。それで、笑ってくれよ」

「な、観鈴…」

「オレ、やっと気づいたんだ」

「オレはお前のそばにいて、おまえが笑うのを見ていればそれでよかったんだ」

「そうしていれば、オレは幸せだったんだ」

「だから、オレはおまえのそばにいる」

「もう、ひとりで夜を越えることもない」

「オレがいるからな」

「オレが、笑わせ続けるから」

「お前が苦しいときだってオレが笑わせるから」

「だから、おまえはずっと、オレの横で笑っていろ」

「安心して笑っていろ」

「な、観鈴」

「観鈴…オレは見つけたから」

「一番大切なものを。俺の幸せを。だから、ずっとここにいる」

「どうなろうとも…俺が…おまえがどうなってしまおうとも…」

「ふたりはここにいる。居続ける。ふたりで幸せになる」

「な、観鈴…」

往人の母:

『…往人』

『…今こそ、思い出しなさい』

『あなたのなすべきことを…』

往人:

「思い出すことなんて、もう何もない」

「なすべきことなんて、俺は知らない」

「俺はただ、こいつのそばにいたいだけなんだ」

「ただもう一度、観鈴の側で穏やかな日々を過ごしたいだけなんだ」

「ただ、観鈴を笑わせてやりたいだけなんだ」

「もう一度…」

「もう一度だけやり直せるのなら」

「そうすれば、俺は間違えずにそれを求められるから…」

「だから、どうか…」

「観鈴と出会った頃に戻って…」

「もう一度…観鈴のそばに…」

※      ※      ※      ※

観鈴:

「どうしてだろ…」

「もう起きられないと思ってたのに…」

「もうダメだって、思ってたのに…」

「往人さん?」

「往人さん、どこにいっちゃったの?」

「戻ってきてくれたんだよね…」

「往人さん…」

「ね、わたし、また元気になったよ」

「まだ、がんばれそうだよ」

「ね、往人さん…」

「往人さん…」
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